御託はいいから fediverse とは何なのか Mastodon とは何なのか、端的に理解する
たとえ話による納得ではなくもっと深い理解が欲しいなら、もう十分書いたので 2017年4月の記事 とか 2017年12月の記事 とかを読んでください。 オタクの語りを嫌というほど読めます。
はじめに
まず「Twitter では〜」とか「Tumblr では〜」とか「2ch/5ch では〜」とか「ジオシティーズでは〜」とか「mstdn.jp では〜」とか「Pawoo では〜」とか、そういう知識は全て放棄して読んでください。 先入観は邪魔です。 ではいきますよ。
端的に言えば、 Mastodon とか fediverse とかいうのはメールとメルマガのようなものです。
メールなんて使ったことねえよ! という人のためにメールの説明をするつもりはないので、その場合は一旦諦めて、メールを知ってから来てください。
以下の部分はすべて冗長な蛇足です。 ゆっくりしていってね!
Mastodon をメールに喩えると
この章では、 Mastodon が Twitter などではなくむしろメールに極めて近いということを納得してもらいます。
前提
- Mastodon アカウントとは、メルマガ (メールマガジン) 発信機能付きのメールアカウントのようなものです。
- Mastodon はサーバプログラムの名前で、これを起動しておくとweb メールサービスとメールマガジンサービス (のようなもの) が稼動します。
- Mastodon はサーバプログラムのひとつにすぎず、他にも相互接続可能なサーバプログラムが複数あります (Misskey, Pleroma, Honk 等)。
- Mastodon プログラムを起動しているサービスが「Mastodon サーバ」を名乗ったり、そのように呼ばれたりしています。
- 複数のサーバ間で通信ができます。
以上を前提に、 Mastodon でできることをメールで喩えてみます。
Mastodon とメールの比較
このリスト、長いと思いますか? 心配しないでください。 ほぼ同じことが2回ずつ書いてあるだけです。
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公開投稿
- メールアカウント+メルマガを持つと、メールマガジンにメールを投稿できます。 投稿したメルマガは web で自動的に公開することもできます。
- Mastodon アカウントを持つと、ネットワークに投稿をすることができます。 投稿は web で自動的に公開することもできます。
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非公開投稿
- メールアカウント+メルマガを持つと、購読者のみが読めるメールを投稿できます。
- Mastodon アカウントを持つと、フォロワーのみが読める投稿をすることができます。
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フォロー
- メールアカウント+メルマガを持つと、サーバを問わずメールマガジンを購読できます。 購読したメールマガジンに投稿があると、自分用の受信ボックスで閲覧できます。 ただし、購読に承認が必要なメールマガジンもあります。
- Mastodon アカウントを持つと、サーバを問わずアカウントをフォローできます。 フォローしたアカウントからの投稿があると、自分用のタイムラインで閲覧できます。 ただし、フォローに承認が必要なアカウントもあります。
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ダイレクトメール (DM)
- メールアカウント+メルマガを持つと、指定した相手にメールを投稿できます。
- Mastodon アカウントを持つと、指定した人だけが読める投稿をすることができます。
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ミュートとブロック
- メールアカウント+メルマガを持つと、見たくないメールをフィルタ指定で自動削除したり、特定のアカウントからのメールを受信拒否できます。
- Mastodon アカウントを持つと、見たくない投稿をフィルタ指定で非表示にしたり、特定のアカウントからの投稿を受信拒否できます。
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多様なサーバ
- メールのアカウントを取得できるサーバはいろいろあります。 Gmail や Yahoo!メール は特に有名ですが、他にも沢山あります。
- Mastodon のアカウントを取得できるサーバはいろいろあります。 mstdn.jp や pawoo.net は特に有名ですが、他にも沢山あります。
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連合
- メールアカウント+メルマガを持つと、他のサーバのアカウントへメールを送信したり、逆に他のサーバからのメールを受信できるようになります。 受信したメールは自分用のページで一覧したり返信できます。
- Mastodon アカウントを持つと、他のサーバのアカウントへ投稿を送信したり、逆に他のサーバからの投稿を受信できるようになります。 受信した投稿は自分用のページで一覧したり返信できます。
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サーバブロック
- あなたのメールサーバからブロックされているサーバもあるかもしれません。 逆に、あなたのメールサーバをブロックしているサーバもあるかもしれません。
- あなたの Mastodon サーバからブロックされているサーバもあるかもしれません。 逆に、あなたの Mastodon サーバをブロックしているサーバもあるかもしれません。
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自前サーバ
- メールマガジン機能付きのメールサーバは、自分で運用することができます。 検閲や理不尽な規約に縛られなくなる代わりに、サーバ管理のコストを負担することになります。
- Mastodon サーバは、自分で運用することができます。 検閲や理不尽な規約に縛られなくなる代わりに、サーバ管理のコストを負担することになります。
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管理者とプライバシー
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メールアカウント+メルマガを持つと、特定の相手にメールを投稿できます。
- 管理者でさえ閲覧できないように暗号化することも原理的には可能ですが……通常のサーバはそのようになっていません。
- 管理者にはメールを秘匿できないことを理解したうえで、そのようなことをしないと信用できる人のサーバを使うべきです。
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Mastodon アカウントを持つと、公開非公開に関係なく、サーバ管理者はすべての投稿を閲覧できます。
- 管理者でさえ閲覧できないように暗号化することも原理的には可能ですが……通常のサーバはそのようになっていません。
- 管理者には投稿を秘匿できないことを理解したうえで、そのようなことをしないと信用できる人のサーバを使うべきです。
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メールアカウント+メルマガを持つと、特定の相手にメールを投稿できます。
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管理者と治安維持
- メールアカウント+メルマガを持つと、サーバ管理者が規約違反の通報を受け付けて迷惑行為にアカウント停止 (BAN) 等のペナルティを与えたり、違法行為を警察に通報することがあります。
- Mastodon アカウントを持つと、サーバ管理者が規約違反の通報を受け付けて迷惑行為にアカウント停止 (BAN) 等のペナルティを与えたり、違法行為を警察に通報することがあります。
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アカウント名と表示名
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メールでは送信者の表示名は自由に決められるため、名前だけで信用してはいけません。
さらには、メールアドレスもアカウント作成時にある程度自由に決められるため、メールアドレスも無条件に信用してはいけません。
Amazon を名乗るアドレス
amazon@waruihito.example.com
からのメールが Amazon 公式からのものだと思ってはいけないのは明らかです。 -
Mastodon の投稿では送信者の表示名は自由に決められるため、名前だけで信用してはいけません。
さらには、アカウント名もアカウント作成時にある程度自由に決められるため、アカウント名も無条件に信用してはいけません。
Amazon を名乗るアカウント
@amazon@waruihito.example.com
からの投稿が Amazon 公式からのものだと思ってはいけないのは明らかです。
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メールでは送信者の表示名は自由に決められるため、名前だけで信用してはいけません。
さらには、メールアドレスもアカウント作成時にある程度自由に決められるため、メールアドレスも無条件に信用してはいけません。
Amazon を名乗るアドレス
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内容の自由度
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メールマガジンでは私信を送ることもできますし、雑談をすることもできますし、読んだ本のレビューをすることもできます。
- 特定の種類の投稿に特化したメルマガサービスも存在するかもしれません。 私は知りませんが可能ではあります。
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Mastodon では私信を送ることもできますし、雑談をすることもできますし、読んだ本のレビューをすることもできます。
- 特定の種類の投稿に特化した Mastodon 互換のサービスも存在します。 つまり、そのようなサービスでの投稿を Mastodon から購読したり、逆に Mastodon からの投稿をそのようなサービスで受信できます。
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メールマガジンでは私信を送ることもできますし、雑談をすることもできますし、読んだ本のレビューをすることもできます。
メールとメールマガジンに本当にそっくりでしょう?
プロトコル、サービス、サーバプログラム
さて、ここまで Mastodon という名前で説明をしてきましたが、実は Mastodon と互換性があって相互に発信/受信が可能ながら Mastodon とは全然違う、そんなサーバプログラムが沢山あるのです。
この章では、 Mastodon と似ている別物が沢山あって、相互にフォローや投稿のやりとりをできるものもあればそうでないものもあることを説明します。
概要としてはこんな感じ:
- サービスやそれを提供するサーバは多数ある。
- サーバはサーバプログラムを実行し続けることでサービスを提供する。
- サーバプログラムにも、いろいろな種類がある。
- サーバプログラムはプロトコル (お約束の手順) に従って通信する。
- プロトコル (お約束の手順) にも、いろいろな種類がある。
- プロトコル (お約束の手順) を共有するサーバ同士でしか通信はできない。
(本当は図があると説明が非常に楽なんですが、面倒なのでたぶん描きません。)
いろいろなサービス
サービスを提供するコンピュータを、サーバと呼びます。 転じて、サーバ上で提供されているサービス自体も「サーバ」と呼ばれることがあります。 ややこしいですが。
Mastodon とはサーバプログラムでしたが、これを実行してインターネットに繋がっているサーバはみな Mastodon サーバであるといえます。 mstdn.jp も Mastodon サーバですし、 Pawoo も Mastodon サーバです。 mastodon.cardina1.red とかいう得体の知れないサーバも Mastodon サーバです (ちなみに私の個人用サーバです)。
Mastodon 以外のサーバプログラム
Mastodon 以外にも似たような機能を提供するサーバプログラムは沢山あります。 日本語圏でよく名前を聞くものだと、 Misskey とか Pleroma とかが有名です。 これらのサービス上で作ったアカウントは、お互いにフォローしたりリプライしあうことができます。
他にも相互通信できるプログラムは無数にあるのですが、ここで列挙しても仕方がないので、気になるなら 誰かがまとめているらしい一覧 とかを見てみてもいいでしょう。 もちろんこのリストに載っていないプログラムも沢山あります (たとえば Honk とかはまだ載っていませんね)。
サービスとプロトコル
なぜ Gmail と Yahoo!メールは別物なのに相互に通信できるのでしょう。 そして Mastodon と Misskey と Pleroma (と他にもたくさん) も、なぜ別物なのに相互に通信できるのでしょうか。
それは、共通の決まりごとに従って通信をしているからです。 通信のうえでの決まりごとをプロトコルといいます。 メールサーバと通信するうえで必要なプロトコルは SMTP や IMAP というもので、これは名前だけならメールクライアントの設定画面で目にしたことがある人も少なくないでしょう。 メールサーバは (大抵は) これらのプロトコルに従っているため、サーバが同じとか違うとかを気にせずメールをやりとりできます。
Mastodon も、メールとは異なりますが ActivityPub というプロトコルに従って通信をしています。 そして Misskey や Pleroma や他多数のプログラムも、同様の決まりごとを守って同じプロトコルに準拠しているため、メール同様サーバが同じとか違うとかを気にせずフォローしたり投稿を閲覧したりできるのです。
ActivityPub 以外のプロトコル
ActivityPub 以外にもプロトコルはあって、 Mastodon と似たようなフォローや投稿機能を実現しているものもあります。 名前だけ挙げると、たとえば XMPP, Matrix, OStatus などです。
なぜそんなにいろいろあるのか疑問に思いますか? それは「なぜメールとメルマガがあるのに Slack とか Twitter を使うの?」と問うているようなものです。 古いものの問題を修正して別物になるとか、策定者が違うから別物になってしまったとか、欲しい性質や機能がちょっと違うとか、さまざまな理由で別物を作る人がいます。
重要なのは、 ActivityPub でも XMPP でも Matrix でも、プロトコル (決まりごと) を遵守しているサーバ (プログラム) 同士であれば相互に通信できるようになっているということです。 同じプロトコル (決まりごと) を守れないようなサーバ間では、通信を成功させることはできないのです。
つまり、 Matrix のみに対応したサーバに登録しても Mastodon とはやりとりできません。 なぜなら Mastodon は (この記事の執筆時点では) ActivityPub にしか対応していないからです。 逆に、 GNU Social などは OStatus と AcitivityPub の両方に対応しているため、 Mastodon とは ActivityPub を使って相互に通信できます。
fediverse とは何なのか
Mastodon をメールサーバとするなら、 fediverse とは、「メールとメールマガジン (のようなもの) の利用者全体や、そういったサーバやメールの繋がり全体」を指す言葉です。 以上!
……だけで済むと話が楽なんですが、サーバが繋がっていれば何でも良いというわけではありません。 補足すべき文脈があります。
fediverse という語は federation (連合) と universe (世界) を融合させたもので、特に federation という語に重要な含意があります。 この文脈での連合 (federation) とは、「独立した管理者たちがそれぞれ立てたサーバ群が、投稿やフォロー行為やアカウント情報を相互にやりとりし、全体としてあたかもひとつのサービスであるかのように連携する」という意味合いです。
つまりこれは、ユーザを囲い込んで逃げづらくすることにより巨大化し強権を持ってきた近年の各種 SNS を問題視する、“中央集権型” サービスへのアンチテーゼなのです。
中央集権型 (centralized) の SNS では、以下のような問題があるのでした。
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サービス提供者が一方的に強権をふるえる。
- 規約に従っていても制裁を受けることがある。
- そもそも規約で運用者都合の制限が強く、ユーザとしては不便なこともある。
- ユーザとして不便で一方的に不利であるとわかっていても、人間関係やビジネスなど様々な都合で受け入れざるをえないこともある。
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サービスへの接続の権利や規格は独占されており、互換性のある代替や、より優れた別物があっても、資産を引き継げない。
- 仮に互換性のあるサービスを開発しても、相互接続を認めてもらえないため、いままでの人間関係を引き継げない。
問題となる点がわかっているのなら、改善版を考えることもできます。
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サービス提供者による一方的な強権を受けないことができる。
- 理不尽な利用規約を避け、信用できる運用者、問題のない規約を選択することができる。 自分が問題ないと思ったサーバから、別のサーバのアカウントをフォローできる。
- そうはいっても、今信用できる人がだんだん邪悪になるかもしれないし、サービスが他人に譲渡されるかもしれない。 もしそうなっても、別のサービスに引っ越せる。 避難先の別サービスから、今までのフォロイーをもう一度フォローすることができる。
- そもそも引越のリスクやコストも嫌なのであれば、自分でサーバを立ててネットワークに参加できる。 管理者は自分なので理不尽な利用規約などはない。
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サービスへの接続の権利や規格は公開の場で議論され発行されており、互換性のある代替や、より優れた別物を開発できる。
- 自分で開発できなくても、誰かが開発してくれたらそれを使えるかもしれない。
- もしサーバプログラムが自由ソフトウェア であれば、改造や機能追加もできる。
- 改造したサーバからでも、共通のプロトコルに対応する限りフォロー関係を維持したり移行できる。
この改善版では、プロトコルを共有して相互に接続することを前提に、「プロトコルの規格がオープンであり、好きなプログラムを選択・開発でき、好きなサーバに所属したり自分でサーバを立てられる」という状態を好ましいとしています。 そうすると、サーバプログラムは多様化し、それを実行するサービスも多数立つことになってくるでしょう。 まさにそれが fediverse の目指すところであり、 “中央集権型” (centralized) な SNS の対極の概念として “脱中央集権型” (decentralized) とか “分散型” (distributed) な SNS と呼ばれます。
この文脈を踏まえれば、 fediverse が ActivityPub 限定のものではないということがおわかりいただけるでしょう。 オープンな規格でサーバやユーザが自由に参加できる連合ネットワークを目指しているのであれば、 ActivityPub 以外にもその理想を追うプロトコルはいくつもあるのです。 よって、 fediverse という語が Mastodon と通信できる範囲 (すなわち ActivityPub プロトコルによるネットワーク) を指しているのか、もっと広い全体を指しているのか、話者や文脈によってまちまちです。 うっかり狭い意味でとらないよう注意が必要かもしれません。
巷でみかけた言説と、現実との向き合い方
ここまでの説明を受け入れてしまえば、もはや巷に溢れるテキトー発言を見破ることは容易でしょう。 いくつか例を出してみます。
「fediverse (Mastodon) には広告がない」?
Mastodon という名前で開発されているサーバプログラムの本家には、たしかに広告表示機能はありません。 Mastodon に限らず大部分のサーバプログラムはそうでしょう。
ですが、それが何だというのでしょうか。 Mastodon (プログラム) はサーバを改造して実行できますから、管理者は強制的な広告表示機能を追加することができます。 実際、広告が表示されるサーバや広告がタイムラインを流れるサーバがあると聞いたことがあります (現存するかは知りませんが、間違いなく可能です)。
本当に大切なのは「広告がない」ことではなく、「広告で嫌になったら別のサービスやプログラムに逃げられるし、逃げた先で同じ人々を再びフォローできる」ということです。 いま広告がないから安心なのではなく、広告を避ける選択肢がある、また広告を避ける選択肢を作れるということが重要なのです。 Twitter だって昔は無料で使っていても鬱陶しい広告はありませんでしたよ。
「fediverse は治安が良い/悪い」?
ナンセンスです。
fediverse サービスでのタイムラインはメルマガ購読のようなものだと喩えて説明しました。 不快な投稿が届くなら、なぜ発言者や拡散者のフォロー (購読) 解除やブロックをしないのでしょうか。
フォローしておらずフォロイーが拡散したわけでもない投稿が不快なら、そもそもなぜそんなものをしょっちゅう見ているのでしょうか? 選別せず全メルマガを無条件に受信するなどという乱暴なことをすれば、メールボックスが悲惨な状態になることは簡単に想像できます。
素直なやりかたで、気になったアカウントを都度フォローするのが良いかと思います。 自分のタイムラインは自分で作りましょう。 全体の治安がどうとかは、あなたのタイムラインには関係ないことです。
(尤も、 Twitter もフォローをちゃんと選んで広告とかトレンドとかが表示されないクライアントアプリを使うなら、それなりに快適にできると思いますよ。 そんなクライアントがまだ現存しているかは知りませんが。 それから、お気に入りのイラストレーターが BAN されたりする事故も回避しようがありませんが。)
「fediverse ではトレンドがなく自分の好きな話が盛り上がらない」
逆の立場で考えてみてほしいのですが、赤の他人の好きな話や見ず知らずの人々の間で話題になっている話がフォローの有無に関係なく fediverse 中に広がって、あなたもそれを何度も見せられることになったら、どう感じるでしょうか。 興味のある話ならいいですが、嫌いなトピックだったり無関心だったりした場合は……
忘れてはいけないのは、短文 SNS におけるフォローと拡散を基本とした投稿の伝播は、雑談と性質が近いということです。 聞いた人が面白いと思った話には自然と続く人がでたり拡散によって「友達の友達」に伝わったりします。 逆に聞いた人がつまらないと思った話は拡散が止められ言及もされず、やがて時間とともに流れていきます。
この雑談のような流れに力を加えて好きな話や “トレンド” が積極的に盛り上がるようにするとは、どういうことでしょうか。 それは、続く人がいなくても何度でも同じ話題を喋り、興味がなさそうな人のところに行って話を聞かせるということです。 これは同時に、あなたがもう聞いた話を何度でも見せられ、興味がない話題が延々と流れてくる、ということです。 fediverse でそのような状態になったら、まず時限キーワードミュートやフォロー解除を検討してしまいます。
盛り上がりというのは、近い嗜好を持つ人々のクラスタで自然と盛り上がり自然と廃れていくものです。 その自然な廃れに逆らおうとするとき、「見たくないものをいつまでも積極的に見せられる」不愉快な環境がやってきます。 それを避けるために fediverse に来た人もいますし、やりすぎれば避けられてしまい、却って当該トピックについての人々の盛り上がりを妨害することになりかねません。
何かの話題で盛り上がりたいなら、その話題に関心を持つ人々と繋がるべきです。 そういう人々がいないのであれば、そうでない人々に無理に押し付けるものではありません。 「fediverse というデカい何か」という幻想ではなく、あなたをフォローしている人々やあなたがフォローした人々のことを考えましょう。 「fediverse というデカい何か」から無関係な話を四六時中押し付けられないことは、むしろあなたにとって喜ばしいことだと考えるのです。
尤も、興味がなくなればあなたもフォロー解除されるでしょうから、余程の迷惑行為やリプライ等でなければ、フォロワーのことはあまり気にしなくてもいいかもしれませんが ;-)
「Pawoo は村八分されユーザが切り離された。 Twitter ではそうなっていない」?
まず前提から。 法律や利用規約は守りましょう。
Twitter が特定の国家の法への準拠を理由に検閲をするかどうかは、本来ユーザには関係のないことです。 たとえ Twitter が米国法をベースにした検閲を行って無修正の性器画像をスルーしたとしても、日本のユーザがそれをダウンロードして保存すればそれは違法なのです。 違法なことができないことに文句を言う前に、政治運動でもして法律の方を変えることを考えましょう。 それが民主主義というものです。
断交? 村八分?
さて Pawoo の “断交” についてですが、文脈としては非実在の子供 (あるいは子供に見えるキャラクター) のイラストが多数あるという現状があります。 そのようなイラストの一部が (あるいは多くが?) (日本では今のところ合法であるものの) 海外では法に抵触するため、海外サーバの管理者はこのようなイラストをユーザに見せたりサーバに保存したりすることはできず、そのような投稿を受け取った場合は速やかな削除が必要です。 とはいえ受信していちいち削除なんてしていたらやっていられないので、サーバごとブロックしてしまおう、というトレンドがあった (あるいはそれが持続している) という文脈です。
逆に言えば、“断交” の動機はそのような対応の手間とリスクの回避が主な目的であって、そういった画像に適切に対処できるリソースのあるサーバは “断交” しないことも選べるということです。 たとえば通報への自動対応や自動判定による積極的な画像削除システムの実装などはひとつの手です。 思想的な理由でブロックする管理者もいるでしょうが、そういうのはそもそも思想の合わない管理者のサーバに居座るなという話なので考えないことにします。 fediverse ではサーバを選べるし引越もできるんですよ。
もうひとつ重要なのは、 “断交” されていない他の日本のサーバでは、海外サーバの Pawoo との “断交” の影響は受けないということです。 何故なら、 Pawoo のサーバ管理者が適切に運用する限り Pawoo の投稿の大部分は日本において合法であることが期待できるため、「流れてくる画像の大部分が日本では違法だった」ということにはなっていないからです。 逆に性器の無修正画像を垂れ流したい人々が集う海外サーバが存在すれば、日本のサーバ管理者は法的リスクや削除対応を面倒に思って積極的にサーバブロック (つまり “断交”) することでしょう。
利用規約
もし「国内では合法なのに利用規約でブロックされるのが気に入らない」というのであれば、簡単な話です。 別のサーバを利用しましょう。 もしお好みのサーバが見付からないのであれば、自分でサーバを立てましょう。 有償でサーバを運用してくれるサービスなどもありますから、 PC の知識がなくたって Mastodon サーバを立てることはできます。
そもそも fediverse は先に説明したように「逃げたければ逃げられるし、逃げ場がなくても自分で作れる」という哲学のもと成立しているのです。 むしろ「日本では合法なのにアカウントが BAN された (そしてフォロー関係を新アカウントに持ち越せず告知もできず苦労した)」のような事故がよく発生する一部界隈のクリエイターにこそ fediverse は向いているといえます。
「Mastodon は Twitter の代替ではない」
#それはそう。 なにせ表面的には似ていても思想が真逆です。
Twitter と Mastodon (や fediverse サーバ/サービス) を比較するとき、特定のサーバの性質のみに注目するのではなく、「サービス上の資産を人質にとられて支配者に従うことで金を払わずに済む道を選ぶか、それとも資産を失わずに済む代わりにコストを負担するか」という観点で考えるべきです。
- サーバや管理者の所在地の法に縛られるのは、 Twitter でも Mastodon でも他のあらゆるサーバでも同じ。
- サーバの利用規約が (管理コストや管理者の思想やインフラの利用規約の都合で) 法律よりも強くなるのも当然のこと。 Twitter でも Mastodon でも他のあらゆるサーバでも同じ。
-
Twitter で繋がることができていた人々が fediverse で繋がることができない、などということはない。
- それはサーバの選び方の問題であって、繋がることのできるサーバへ引っ越したり、自分でコストを負担して立てることができる。
- その点、 Twitter では fediverse で繋がることのできる人とも BAN による強制的な “断交” を迫られる場合がある。 この場合、 BAN された人の新アカウントを探すのも一苦労だし、そもそも新アカウントを作ったり継続できるとも限らない。 コストをかければ Twitter 上で再び繋がれるというわけでもない。 この点で Mastodon よりも明確に、 Twitter は繋がりを断ち切る力が強い。
- 単純に Twitter をやっていて Mastodon からフォローできるサービスを使っていないという人は結構いるかもしれませんが……。 Mastodon をやっていて Twitter をやめた/追い出された人もいるので、これは単純なユーザ数の問題です。 そもそも Twitter でのフォロー関係をそこまでして Mastodon に持ち込みたいのかについても、一度考えてみてもいいかもしれません。
- 規約は規約。 法律は法律。 あるサーバの規約に従うことを避けるために他のサーバを選択できることには価値がありますが、自分の所在地の法律に従わないためにサーバを探しまわることはおすすめできません。 どうしても嫌なら先に法律を変えるための社会運動をしましょう。
おまけ
「ローカルタイムライン (LTL)」とか「連合タイムライン (FTL)」とかいう異常概念
Mastodon をメールとメールマガジンで喩えました。 そうすると、あなたがフォローした人の投稿が流れてくる領域、通称「ホームタイムライン」 (HTL) はメールの受信ボックスということになります。
ところで Mastodon には、ホームタイムライン以外にも、同じサーバのすべての公開投稿が流れてくる「ローカルタイムライン」 (LTL) や、連合しているサーバに届いた公開投稿がすべて流れてくる「連合タイムライン」 (FTL) というものがあります。 これをメールとメールマガジンに喩えるとどうなるでしょうか。
- ローカルタイムライン: 同じサーバでアカウントを持っている人のすべてのメールマガジンが流れてきます。
- 連合タイムライン: サーバに届いた全ての公開メールマガジンが流れてきます。
すごいですね。 スパムも真っ青です。 こんなものをホーム画面に表示して受信ボックス、もといホームタイムライン (HTL) と同等に扱いたいと思いますか?
連合タイムライン (FTL) はかなり特殊です。 たとえばサーバに英語をメインで使う人がいたら英語投稿が大量に流れてきますし、繋がりのない人々の投稿も全部まとめて流されてしまうので脈絡を読み取るのも難しいです。 同じサーバの構成員とそのフォロー先アカウントが少なければ見るに堪える状態になるかもしれませんが、それなら素直に興味のあるアカウントをフォローして、そのアカウントが拡散 (boost) した投稿の投稿者を見る方が “当たり率” は高いでしょう。
乱雑なタイムラインでも画像があれば目を引くかもしれませんが、そういう単発のネタを拾ってくる以外では賑やかしのようなものです。 連合タイムライン (FTL) は多少偏りがあってもいいからランダムな投稿やアカウントと遭遇したい場合に使うものではあっても、それ以外の目的で使うものではありません。
ローカルタイムライン (LTL) はもう少しおとなしいものです。 サーバの登録者たちが特定の共通の嗜好を持っているのであれば、 LTL はコミュニティの雑談場として機能することになるでしょう。 しかし、もしあなたが投稿を拡散 (boost) せずエアリプばかりしていると、サーバ外のフォロワーにとっては「文脈が全然見えてこないが、見えない誰かと話している人」に見えてしまいます。 もっと具体的に言うなら、「道端で電話で楽しそうに話しているが、相手が何を言っているのかは全くわからないし、何の話かも読み取りづらい人」のように見えているということです。 せっかく好きな話題や面白いことについて話しているのに、その様子や全貌、面白さが全然伝わらないのは勿体ないと思いませんか?
つまり私が言いたいのは、ローカルタイムライン (LTL) は有用である状況に条件がつくということと、 LTL のみを介しての対話はサーバ外からは無意味なものに見えているということです。 もし LTL があなたにとって魅力的でないものに見えるなら、粘らず利用をやめてしまいましょう。 興味のあるアカウントがあるなら、 LTL にいるかどうかに関係なくフォローしてみましょう。 LTL 内外の人と同時に会話できるのは LTL ではなくホームタイムライン (HTL) 上です。 別のサーバへ移行したり予備アカウントを作るときにも、リストとして出力できるのは LTL 上のアカウント一覧ではなくフォロー一覧ですから、 LTL にいるアカウントをフォローすることにも意味はあります。
そして、たとえ LTL で会話が成立するとしても、サーバ外のフォロワーに向けて拡散 (boost) をしてみましょう。 トレンドや有名人の押し付けシステムがないのであれば、あなたによって選別された拡散こそがフォロワーにとって重要なアカウント発見の場になります。
自分の好みのタイムラインを、自分の手で作りましょう。
Twitter での人間関係を持ち越せないのがつらいという考え方
個人的な話ですが、これは私にとっては面白い意見でした。 というのも、私は fediverse に他の場所での人間関係を “移植” しようと思ったことがあまりなかったからです。 (興味持ちそうな人におすすめしたことくらいはありますが……。)
たとえばコミュニティや関心次第で Twitter, Slack, Discord, Zulip, Discourse, ……などなど、さまざまな場があり、その場その場に人がいて繋がりがあります。 同じ話題や傾向のコミュニティであっても、場によってやはり構成員は違いますし、「こっちにいた人があっちには居ないから興味が湧かない」とは私はならず、その場に面白い話題や人があれば参加する、という場に合わせた判断をしています。 知り合いがおらずとも共通の話題があればそのうち目につくことになるだろうし、人間関係は勝手に発生するに任せればよいだろうと。 fediverse と Twitter その他諸々についても、暗黙に私は同じ考え方をしていたようです。
一方「Twitter での人間関係を fediverse に持ち越せない」、つまり「Twitter のフォロイーやフォロワーがほとんど fediverse にいない」という理由で fediverse に魅力を感じないというのは、つまりある意味では Twitter をプラットフォームやサービスとして認識しているのではなく、その上の「知り合い」との繋がりを本体であると考えているのであろうと思われます。 であればこそ、その “繋がり” という資産を人質に取られて Twitter から事実上脱出を阻まれているわけです。
しかし、 SNS 上での引越というのは物理的な引越と違って、元いた物件を引き払う必要はありません。 どうせ最初は (自前サーバ勢でなければ) ローコストかノーコストな環境で始めるのでしょうから、 Twitter における人間関係はそのままに、 fediverse にも手を出してみればいいわけです。 高頻度で触らないのであれば、タイムラインがおとなしくても寂しくはないでしょう。 利用頻度に合ったフォロー数にすれば良いですし、フォローが増えてきたら自然と fediverse に来る頻度や利用時間も増していくでしょう。
そのようなわけで、私はこの意見を聞いて「『引越』や『人間関係』というアナロジーに引っ張られず、もっとシンプルに、何も失うことなく新たに面白そうなものを探せば良いのでは?」と思いました。 知り合いとか見知らぬ人とか、見たことあるなしも関係なく、面白そうなアカウントを見付け次第フォローしてみればいいのです。 フォローはフォローであって現実の友人関係ではないし、アカウント作成はアカウント作成であって現実の引越ではないのです。 見ず知らずのアカウントが相手であれば、現実の交友関係と違って、フォローの解除もさして角が立つことではないでしょう。 (フォロー解除だけで問題が起きるようであれば、そもそもお相手の性質がよろしくないように思われます。)
せっかくのインターネットなんだから、楽しみましょう。
(盛大な蛇足: https://twitter.com/lo48576/status/1587455604959768578)