何とは言わない天然水飲みたさ

キログラムを粉砕せよ

今年の目標

国際単位系

国際単位系、略称SIというものがある。 度量衡、物理単位を定めた国際規格のようなものである。

さて、この中でも特に、SI基本単位というものがある。 様々な物理単位は、SI単位を軸とする空間にプロットすることができる(すなわち物理単位はベクトルと見做せる)が、その空間の基底として選ばれた7つの単位がSI基本単位である。 SI基本単位を用いると、たとえばWikipediaの例にあるように、ワット(W)は kg·m2·s-3 、ヘルツ(Hz)は s-1 と表現されるが、この調子で全ての物理単位を表現できるということである。

SI基本単位の定義

さて、かつてメートルやキログラム等の単位が定められたとき、水であったり地球であったりといった自然のものを活用して定義が行われた。 王様の足やら古代人の食べるパンの量やらといった、ローカルで再現性の欠片もないような単位から離脱したわけである。

時は過ぎて現代、水の密度は温度によって変わるし地球の大きさも測り方によって一定ではないことがわかっている。 すなわち、かつての定義は再現性を失ったのである。 科学は客観性と再現性の学問であるから[要出典]、再現性のない定義は大いに問題だ。 SIはこれを、物理的に一定であると信じられている基準を用いて単位を再定義することで解決した。 光速度は一定ということになっているし、水の三重点の温度は(圧力とともに)一意に定まるし、セシウム133原子の振舞はすべてのセシウム133原子で共通なのである。

しかし、そんな現代でも、まだ物理単位が遍く再現性の光に照らされているというわけではない。 科学の祝福を受けていない単位、それはキログラム[2]

国際キログラム原器

キログラムの定義は、2016年12月31日現在、「国際キログラム原器の質量」である。 ということは、キログラム原器の質量が変われば、定義よりキログラムの大きさも変わってしまうということになる。 そして、それに伴ってモル、アンペア、カンデラも変わることになる。

そんな重要なキログラム原器は、当然その保管も厳重である。

国際キログラム原器は直径・高さともに約39mmの円柱形の、プラチナ(白金)90%、イリジウム10%からなる合金製の金属塊である。 フランス・パリ郊外セーヴルの国際度量衡局(BIPM)に、2重の気密容器で真空中に保護された状態で保管されている。
キログラム - Wikipedia, 2016/12/31 23:45, 注は略

国際キログラム原器は多くの物理単位の基準となる以上、その精度は非常に重要である。 これを正確な軽量をしたいからと頻繁に持ち出したり移動しては、汚れの付着や破損のおそれなどがあるから、そのようなことは怖くてできない。 そこで、国際キログラム原器はいくつもの複製が作られ、日本を含めた世界各国へ配布されている。

キログラムの再定義

こんな状況では良くないということで、キログラムも(他のSI基本単位と同じように)再現性のある物理現象で定義しなおそうという話がある。 プランク定数(単位 J・s = s-1・m2・kg)を用いて、既に良い形で定義された m と s を用いて再定義を行う方法や、 Si 原子の結晶を作って個数を精密に調整・計算することで重さを再定義する方法などがあるらしい。 どれが採用されるのか、又はされたのか、私はよく知らないが。

ともあれ、今のところはまだ国際キログラム原器がキログラムの定義である。

国際キログラム原器を破壊したい

さて、このように非常に重要なキログラム原器(とそのレプリカ)を全て破壊すれば、キログラムに依存する分野の科学や工業に復元困難な大ダメージを与えることができるのではなかろうか。 キログラム原器同時破壊テロの機運が高まっている。 キログラムが再現性の高い形で再定義されてしまう前、今がラストチャンス[3]

何故キログラム原器の破壊が重要かといえば、これが科学と工業を壊滅させるための単純で根本的かつ効率の良い方法だからである。

科学はその客観性と再現性ゆえ、嘘という毒では破壊が難しい。 一時的に狂わせることができても、後に嘘がバレれば修正されてしまう。 かといって、世界中の科学や工業の知識を燃やし尽くすというのも現実味がない。 電子化されて手の届かない場所へバックアップされてしまうとどうしようもないし、暗号化されたら、それが科学の知識だとさえわからなくできてしまう。

そこでキログラム原器の破壊である。 キログラム原器を(レプリカ含め)すべて破壊することで、キログラムという単位はその拠り所を、値が異なっても権威の存在しない、かつ精度が大きく落ちているであろう他の物体に依存することになる。 この破壊行為で、極めて高精度の電流や質量の定義や測定を要求するような分野を破壊できるだろう。 物理的破壊で、科学と工業という文明を破壊するのである。 これほどの逆転劇、これほどのロマンがあろうか。

きっと成功の暁には(もしかすると失敗しても)、文明への反逆者としてその名を科学史に残せるに違いない。

実際どうなの

大ダメージとはいうが、実際文明への影響はどうなのだろうか。

これは私も思った。 が、以下のような指摘もあり、私の知識では影響が計れない。

残念ながら、この世の中のほとんどの工業製品はせいぜい小数点第二位程度の重さの管理範囲内でしか作られていない・・・困るのは・・・製薬業界ぐらい?

PlatoonLeader (@442ndCombatTeam) のコメント

キログラム原器(原本と各国配布)を破壊すると、精密天秤を制作しているメーカーの2次原器が校正することが出来なくなる。一般的なメーカーは、精密天秤に対して校正してあるので、重量測定が必要な分野全てに影響が出る。差し迫って、合金(ステンレスやアルミ合金)にはじまり、プラスチックなどの材料系が壊滅、小麦粉などの粉製品も取引できない。まさしく、工商業史上最悪の事態なるのでは?

delphinus (@Delphin_apterus) のコメント

どうなるのか、気になるところだ。 実際に破壊してみればわかることだが。

そんなSFが読みたい

自然単位系原理主義者とか、僅かな測量の誤差で人生を狂わされた人とか、人類の愚かさに絶望した人とか、そんな感じの主人公がキログラム原器同時破壊テロを起こして社会を大混乱に陥れる、そんなSFが読みたい。

や、実際に誰かがやってくれてもいいが、さすがに笑っていられなくなるからなあ。

補足: 自然単位系

自然単位系というものがある。 真空中の光速度や素電荷、陽子や電子の静止質量など、物理定数(値の変化しない物理量)を適当に(単位空間の正規な基底となるように)選択し、(それらの値が1となるようなスケールの)単位系として使おうというものである。 これは水や地球の大きさのように人類ローカルな基準など最初から考慮しておらず、グローバルどころかこの宇宙全体で合理性を持つユニバーサルな単位系である。

この単位系には、恣意性の排除意外にも、単位スケールの変換に必要とされる定数が消えることによる物理学の方程式の単純化というメリットもある。

参考資料